浴衣の帯を解けば、難なく曝されるしなやかな体。

十年近く、ずっと、目の前にぶら下げられていたご馳走。

決して口にしてはならない、禁断の果実。

それを喰らう欲望に、負けてしまわないうちにと、身を切る思いで花月から離れた。

それが、今、十兵衛の腕の中で、喰らわれるのを待っている。

たまらなかった。

再び口付け、じっくりとその口腔を味わう。

抱きしめた肌がふるふると震え、その感触さえ、欲情に繋がった。

「じゅう、べ・・・・」

濡れる唇から、大きく上下する薄い胸の、頂の赤へ。

吸い付く場所を変えると、花月はまたも、身を震わせる。

この体は、どこもかしこも美味しそうで、どこからたべていいのかわからない。

「花月・・・・」

思わず洩れた呟きに、漆黒の瞳が笑む。

「僕も・・・十兵衛を、愛したいな」

そんな可愛いことを言って、着たままだった浴衣の衿を引き、はだけた胸の、鎖骨の辺りに口付け、舐める。柔らかな舌の感触に、それが欲しくなった十兵衛に再び絡め取られて喉を鳴らす。

「ん・・・」

花月の唇が触れたところが、いや、全身が、熱い。

湯上りの匂いを残した甘い肌に、余すところなく口付ける。

熱く柔らかいそれに紅い跡を思う存分残し、震えて立ち上がっていた、脚の間のものに唇を寄せた。

「あっ・・・じゅうべっ、ちょっ、待っ・・・」

待てるわけがない。

花月はこんなところまで綺麗だと、心眼でしっかりと観察しつつ、それを口に含む。

「んっ・・・は・・・なせって、ば、あっ・・・」

髪を掴まれて、ぐいぐいと引かれるのも心地いい。

舌に当たる、熱くしっとりとしたものが、びくびくと震えるさまが、可愛らしい。

しかもそれは、すぐに熱い果汁を迸らせて十兵衛を喜ばせるのだ。

「美味い、な」

「え・・・なに、飲んだの！？」

悲鳴のような声を上げて、がばりと起き上がった花月に、ニヤリと笑った十兵衛は襲う勢いで口付けた。

くちゃくちゃと絡まる舌の間で、花月の体液の味が混ざり合う。

「う・・・・ば、か・・・・・っ」

やっとはなれた唇が、可愛らしい恨み言をこぼしてからきゅうっとかみ締められた。

十兵衛が、軽く花月の耳朶を食んでから、するりと太腿にささくれた手を這わせ、ぐ、と掴んで持ち上げたのだ。

「お前は、どこもかしこも美味いな」

そういった十兵衛は、花月の柔らかな内腿をゆっくりと味わいながら、先ほど愛しんでいた象徴のさらに奥、秘められた蕾に舌先を触れさせた。

「あ、やっ・・・十兵衛、そこ、汚い・・・」

花月も、そこを使うといことを、知らないわけではない。

それでも、どうしても舐められることには抵抗があるし、脚を大きく広げられ、すべてを曝したこの姿は、恥ずかしい。

「さっき風呂場で綺麗に洗っていただろう」

恥らう花月は可愛いが、心を決めた十兵衛は容赦がない。

いっそう高く腰を抱え、初めての場所へ舌をもぐり込ませる。花月の体がゆるりとうねり、背に敷かれた黒髪が音をたてて擦れた。

「洗ったけど・・・違うよ、ばか、違うって・・・」

十兵衛の舌が、花月の中でゆるゆると動く。

くすぐったいのか、恥ずかしいのか、それとも他の何かなのか。

知らない感覚に身悶えているうちに、節くれだった太い指が舌に沿って入ってきて、花月は畳に爪を立ててそれに耐えた。

「うゎ、わ・・・っ、あんん・・・・・」

脚の間で、十兵衛の獣のような息遣いが聞こえる。

無骨なのに器用な指が、花月の奥深くまで分け入って、花月の知らない場所を弄りまわす。

くちゅくちゅと、濡れた音が立つたびに、体が勝手に動いて反応を返してしまう。

動くたびにチリチリと鳴る鈴さえ、常にない自分を突きつけているようで、おかしくなりそうだ。

もう、どうしていいかわからない。

「じゅうべえ・・・なに・・・？も、僕、へんだよ・・・・・・」

自然に腰を揺らめかせ、媚態としか取れない動きをはじめた花月に、十兵衛の雄は、どうしようもなくいきり立った。

二本、三本と増やしていた指を抜き去り、自分のものをあてがう。

ふっ、と目を伏せた花月が涙ぐんでいるのに気がついて、それを唇で拭い、その身を抱きしめ。

「っや、ああっ・・・」

丹念に愛されたそこは、しかし初めての硬さで十兵衛を拒む。

「かづき・・・っ」

しかし、狭い門を強引に押し開けた十兵衛は、ひと息にその最奥までをその身で貫いた。

「・・・・っ！」

言葉も出ない花月に、十兵衛は何度も何度も口付ける。

やがて、泣き濡れた瞳が開かれ、震える指先が差し出され。

十兵衛を受け入れる花月の、その指が、十兵衛の頬に触れた。

「花月・・・」

差し出されたその指先に、頬に、額に、唇に。

何度も何度も口付けながら、しかし十兵衛は花月の奥を突き上げる行為にも、容赦をしない。

「あぅ・・・ああ・・・・んっ、じゅう、べ・・・え・・・・」

自分の名を呼ぶ唇からこぼれた唾液を、舌ですくい上げる。それは甘露のようだった。

いや。

十兵衛の下、初めての苦痛と快楽に喘ぐ花月そのものが、甘露。

十兵衛は、いっそう強くしなやかなその身を掻き抱き、愛しさのままに奥深くまでを蹂躙し、味わう。

花月の内は熱く、十兵衛の背にまわされた腕には時折きつく力がこもり。

そうして、その愛しい身は、十兵衛の動きに従い、達した。

そして十兵衛も、後を追うように、きつく自身を喰い締める肉襞の中に思いの丈を注ぎ込んだのだった。

「花月、大丈夫か・・・？」

花月に口付ける、十兵衛の息は、荒い。できることならば、このまま何度でもこの体を貪り、喰らい尽くしてしまいたい。

しかし、やっと冷静さを取り戻した十兵衛に、息も絶え絶えの様子で横たわる花月相手に無体を強いることはできない。

「うん・・・」

頷いた花月の声が、甘くかすれて情を誘う。

長い髪の張り付いた喉元を、真珠の汗が滑って落ちた。

「体を洗うぞ。浴場に行こう」

そう言って、十兵衛は下に敷いていた浴衣で、花月の体をおし包む。

宝物のように抱き上げられた花月は、うっとりしつつも慌ててそれをさえぎった。

「ああ、うん、ええと。この部屋、お風呂付いてるから・・・ここで洗おう？」

「広い方がいいだろう」

真顔の十兵衛に、花月は常よりも随分とまわらなくなっている頭を、なんとか巡らせる。

この格好で、誰が来るかわからない浴場へ連れて行かれるのは嫌だ。

「でも・・・さ、今は、十兵衛以外には会いたくないというか・・・・」

それも正直な思いだったので、説得力があったのだろう。十兵衛も頷いて、浴場と思しきドアへと向かった。

「綺麗に洗ってやる」

「なんかそれ、ヤらしいよ・・・」

「俺はずっと、花月にいやらしいことがしたかったんだ」

「うぅ・・・ヘンタイ・・・・」

十兵衛の言葉にはてらいがない。

そのぶん、花月が恥ずかしい。

「お前に触れられるのならば、変態でもかまわん」

「・・・・・」

急に押し黙った花月に、十兵衛は首を傾げて軽く口付けた。

「どうした？」

「・・・・触れるだけかい？見たくない？」

本気で、僕のためにその目を治そうとはしてくれないのかい？

見えなくても、十兵衛にはわかった。

抱き上げた腕からこぼれる、しなやかな脚。

淫らな熱に、赤く染まったままの腰。

長い黒髪の落ちかかる白い肩。

自分の肩に縋る、細くたおやかな指。

うっすらと開かれた、かたち良い唇。

ほのかに上気した頬に、わずかに残る涙の跡。

いつか日溜りで見惚れた瞳が、一生懸命に十兵衛を見上げている。

「言っただろう、花月。俺は今、視覚以上に様々なものが見える。もちろん、お前の美しさもだ」

「／／／／／／／／」

真っ赤になった花月にまた口付けを落とし、十兵衛は先ほど同意のみで言い損なっていた言葉をささやいた。

「あいしている、花月」

「・・・・・・・・うん、僕も」

花月の答えは十兵衛と同じもので、ふたりはちょっと笑って、また、キスをした。

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